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テレワークの現状分析と成功例|国土交通省調査より

辻 雅史辻 雅史
公開日 2025.10.13
テレワークの現状について1枚で伝えるヒーロー画像

「テレワークを導入すべきか迷っているが、生産性が落ちないか不安」、「導入した企業の『リアルな現状』や『成功の秘訣』を知ってから判断したい」など多くの経営者や人事担当者が、そのような判断に直面しています。本記事では、国土交通省などの客観的な実態調査データを基に、テレワークの導入率や生産性への影響を分析します。さらに、導入に成功している企業が実践する具体的なコミュニケーションルール、評価制度、ITツールの活用法までを紹介します。この記事を読めば、テレワーク導入への漠然とした不安が解消され、「自社で成功させるための具体的なステップ」が明確になります。

【記事内の専門用語】

  • 雇用型就業者:正社員・契約・派遣・パート等の本業従事者
  • 雇用型テレワーカー:上記のうち、これまでテレワーク(リモートワークとも呼ばれる)をしたことがある人

まとめ

  • 雇用型テレワーカーは24.6%でありコロナ前より高水準で定着
  • 企業の制度導入は33.1%、そのうち実施経験者63.1%。実施場所は在宅が97%
  • 平均実施日数はピークの2.4日/週(令和2・3年度)から低下も、週2日以上を維持
  • 生活面では家事・育児・趣味・副業等の時間が増加、勤務先周辺の飲食は減少

テレワーク導入に成功している企業の施策例

  • 役職を問わず絵文字や「いいね」などのリアクション活用を推奨
  • 使用ツール上で、業務連絡だけでなく雑談チャットも実施
  • 評価後に、評価者と被評価者が認識をすり合わせて不満やギャップを解消

テレワーク制度は、人手不足の緩和や優秀人材の獲得・定着に有効です。導入の是非だけでなく、自社の職種や業務特性に合わせて頻度や目的を設計することで、運用品質を高められると考えられます。

テレワーク導入率、コロナ禍を経て「定着傾向」へ

テレワーカーの割合は定着傾向があり、特に首都圏や通勤時間が長い人ほど高い傾向が見られます。

国土交通省による「令和6年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」によると首都圏や通勤時間が長い人ほど、テレワークが浸透しています。

  • 全国の導入率: 24.6%(昨年度24.8%と、ほぼ横ばい)
  • 地域別の傾向: 首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)では令和2年度以降、3割超を維持
  • 通勤時間別の傾向: 通勤時間が1時間30分以上の場合、導入率は50.6%に達する
テレワーカー割合の推移(H28〜R6)。雇用型は13.3%→24.6%、自営型は21.4%→27.9%へ上昇。R6の内訳表付き。
図1 全就業者におけるテレワーカーの割合(H28〜R6)

テレワーク:「制度」の設置率は低下も、「活用者」は増加傾向

国土交通省の調査(令和6年度)により、テレワーク制度の設置率はやや低下したものの、活用者は増加傾向にあることがわかりました。

  • 制度の導入率: 33.1%(昨年度から約2ポイント減少
  • 制度利用者の割合: 63.1%(昨年度から約2.3ポイント増加

これは、一見すると「制度を維持する企業でテレワークが定着してきた」と読み取ることができます。

しかし、一方で、もともとテレワークの利用実態がなかった企業がテレワークの制度そのものを廃止した結果、テレワークの活用率が高い企業のみが残り、制度利用者の割合が高まっただけの可能性もあります。

制度導入率と雇用型テレワーク実施率の推移(H28〜R6)のグラフ。青の棒が制度導入率を示し、H28の14.2%からR6の24.6%まで上昇。黒線は全雇用型就業者のテレワーク実施率(13.3%→24.6%)、オレンジ線は制度ありの就業者におけるテレワーク実施率(54.6%→63.1%)を示す。
図2 制度導入率と雇用型テレワーク実施率の推移(H28〜R6)

テレワークの実施場所は在宅型が最多

テレワークの実施場所としては、在宅型が最も多く、サテライト型やモバイル型と比較して広く普及しています。

  • 在宅型: 97%
  • サテライト型: 約2割

    (例:共同利用型オフィスなど)

  • モバイル型: 約2割

    (例:出張中に立ち寄る喫茶店、図書館、ホテルなど)

テレワークの実施場所は、在宅型が97%と最も多く、サテライト型(共同利用型オフィスなど)・モバイル型(出張中に立ち寄る喫茶店、図書館、ホテルなど)はそれぞれ約2割であることがわかりました。

テレワーク実施場所(重複可)のベン図。在宅型67.1%が最多、サテライト9.2%、モバイル6.0%。在宅×サテライト14.7%、三者重複0.5%、その他1.7%。
図3 種類別のテレワーカー割合

テレワーク実施者は減少も、継続層(コア層)はハイブリッドワークが定着

コロナ禍を経て、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークが定着しています。

  • 雇用型テレワーカーのうち、週1日以上テレワークを実施する人の割合: コロナ禍をきっかけに令和2年度から増加
  • その後はやや減少傾向にあるものの、コロナ流行前と比べて高い水準を維持
  • 1週間あたりの平均実施日数(年1日以上テレワークをしている雇用型就業者の平均): 令和2・3年度の2.4日/週をピークに、令和4年度以降はやや減少しているが、週2日以上の水準を維持
テレワーク実施頻度の年次推移(H28〜R6)の積み上げ棒。高頻度(週5–7日)は概ね17〜21%、週2〜3日層が拡大し、平均実施日数はR2で2.4日/週がピーク、その後は2.1〜2.3日/週で推移。
図4 雇用型テレワーカーのテレワーク実施頻度と1週間あたりの平均日数

一方で、雇用型就業者のうち、年に1日以上テレワークを実施している人の割合は約15%となり令和3年度(約21%)以降減少しています。

雇用型就業者におけるテレワーク実施頻度の推移(H28〜R6)の横棒グラフ。週5〜7日実施の割合はH28の2.8%からR3で4.2%に上昇後、R6で2.7%に減少。全く実施していない“年0日”の割合はH28の86.7%からR6で84.4%へ微減。週1〜4日や月数回の実施層も全体の1〜4%前後で推移している。
図5 テレワーク実施頻度

底堅いテレワーク需要:継続意向64%、希望は「現状以上」

雇用型テレワーカーの約64%が継続意向を持ち、未実施層でも一定の実施意向が残るなど、需要は底堅い状況です。また、希望頻度は多数が現状以上を志向しています。

継続意向

  • 雇用型テレワーカーの約64%が、テレワークの継続意向を持っています。
    • 直近1年間の実施者(約63%)のうち、約80%が継続意向あり。
    • 直近1年間の未実施者(約37%)のうち、約36%が実施意向あり。
  • 雇用型非テレワーカーでも、約16%が実施意向を持っています。

希望頻度

  • テレワーク継続意向のあるテレワーカーが求める頻度の概要
    • 9割以上: 「現状の実施頻度と同頻度以上」を希望
    • 5割以上: 「現状を上回る頻度」を希望
  • 具体的な希望頻度
    • 最多は「週2日以上」、次いで「週1日」、「週5日以上」と続く
    • 半数は週3日以上を希望
    • 7割以上が週1以上の出社と組み合わせたハイブリッドワークを希望
継続意向あり雇用型テレワーカーの頻度比較。希望は現状より高めで、週5日以上が14.4%→23.4%に増加、週1日・週1日未満は希望で減少。
図6 継続意向のある雇用型テレワーカーの実施希望頻度と現状の実施頻度

従業員側のテレワーク希望は依然強いため、企業は可能な範囲でハイブリッド型など多様な働き方を整備していくことが社員の定着率向上につながります。

こうした柔軟な働き方の整備は、社員全体の定着率向上に寄与しますが、特に早期離職が課題となりやすいZ世代(若手社員)にとっては、エンゲージメントを高める重要な要素となります。

「なぜ最近の若手はすぐに辞めてしまうのか」その理由と、具体的な定着率向上策については、こちらの記事で詳しく解説しています。

参考: なぜ若手は3年で辞めるのか?最新の離職率データと新入社員意識調査から探る、Z世代の定着率を高める方法

テレワークで生活行動が変化:「職場中心」から「自宅圏・オンライン」へ

テレワークの普及により、家事・育児や趣味など生活に関わる行動時間が増えています。一方で、勤務先周辺での食事や飲み会は減少し、働く場所の重心が「職場中心」から「自宅圏・オンライン中心」へと移行していることがわかります。

これらの導入状況を踏まえ、次にテレワークの実施頻度や勤務形態の変化を見ていきます。現在もテレワークを継続している人は、テレワークをするようになってから、家事・育児などの生活行動や趣味を重視する傾向があり、それらに費やす時間が増加しています。

週1日以上のテレワーカーの生活行動変化。仕事は「変わらない」が最多、生活(家事・育児等)と趣味は「上がった」計が多く増加傾向、社会貢献は大半が変化なし。
図7 重視する活動の変化

具体的には、以下のような活動の頻度に変化が見られました。

<自宅の近く・オンラインで増加した活動>

  • 食品・日用品の買い物
  • 食事・飲み会(オンライン含む)
  • 趣味・娯楽
  • 散歩・運動
  • 副業・兼業
  • 家事・育児
  • 金融機関・行政手続き

<勤務先の近くで減少した活動>

  • 食事・飲み会
テレワーク実施による活動頻度と行動変化を勤務先近く、自宅近く、外出せずオンラインの3区分で比較したグラフ。勤務先近くでは食事・買い物や飲み会などが大幅に減少し、自宅近くでは買い物・飲食・運動が増加。オンラインでは会議・打合せや趣味・学習の活動が増えている。全体として、職場周辺での活動は減少し、自宅圏・オンラインでの活動が拡大している傾向を示す。
図8 テレワークによる活動頻度と行動変化(勤務先・自宅・オンライン別)

職場近辺の食事・飲み会減少は社員間の関係が希薄化するのリスクがあるため、交流の機会を設けるなどを意識していく必要があります。

参考:国土交通省「令和6年度 テレワーク人口実態調査-調査結果-」

テレワーク成功の鍵:ITツール・意図的な交流・透明な評価制度(企業事例)

ITツールの活用や整備された評価制度によって、テレワーク制度の維持に成功している企業を紹介します。

事例1: 株式会社プログレス

厚生労働省の令和6年度「輝くテレワーク賞」において優秀賞を受賞した、株式会社プログレスについて紹介します。株式会社プログレスは2020年の創業時から完全テレワーク・フルフレックス制度を導入しており、日本一のテレワーク体制の開発会社を目指しています。社員の約半数は地方在住であり、ライフイベントの変化にも柔軟に対応できる職場環境が整った企業です。

年度別離職者比率の棒(男女)+折れ線(全体)。男性:22年10.0%→23年11.5%→24年5.0%。女性:22年0%→23年4.0%→24年3.3%。全体:22年7.4%→23年9.3%(ピーク)→24年4.5%。
図9 年度別離職者比率

テレワークでの業務を維持するために、Notion、Slack、oViceなどのITツールを活用し、テレワーク時のコミュニケーションを支援しています。さらに、オフラインでの集まりを意識的に設けるほか、オンラインランチ会やオンライン飲み会を定期的に実施し、社員同士の交流を促進しています。

人材育成としては、CCO(Chief Communication Officer)の設置や講師によるオンデマンド講義を実施しています。また、人事評価では、テレワーク下とオンサイトにおいて同一の基準を用い、部署ごと・クラスごとに必要とされる能力を綿密に定義しています。評価はプロジェクト単位で行われ、評価後には評価者と被評価者が認識をすり合わせることで納得感を確保しています。

テレワークの生産性と社員の一体感を両立するには、ITツールで日常運用を固めつつ、意図的な交流機会透明な評価設計を組み合わせるのがポイントになると考えられます。

事例2: パーソルホールディングス株式会社

次に、厚生労働省の令和6年度「輝くテレワーク賞」において特別奨励賞を受賞した、パーソルホールディングス株式会社について紹介します。パーソルホールディングスは2020年10月にテレワークを導入し、2024年7月時点で社員の9割以上が週1回以上のテレワークを実施しています。テレワークの導入以降、退職率は5.8%減少し、キャリア採用数は2019年比で1.7倍に増加しました。キャリア入社者へのアンケートでは、「入社の決め手」として仕事内容に次いで「はたらき方(テレワーク・残業・転勤)」を挙げる割合が多く、テレワークの導入が優秀な人材確保に寄与しています。

「入社を決めた理由」の棒グラフ。最多は仕事内容、次いではたらき方、組織風土、経営方針。収入などは中位、人事制度・業界・その他・雇用形態は少数。
図10 入社を決めた理由

コミュニケーションガイドでは、役職を問わず、絵文字や感嘆符、いいねボタンの使用を推奨しています。また、テレワーク業務を円滑にするため、各種ITツールの導入と整備に加えて情報セキュリティの規律を策定しています。中でもMicrosoft Teamsはミーティングの実施だけでなく、組織や業務ごとにチームやチャンネルを設けて活用しています。さらに、業務上の連絡に加え、雑談チャットなどの会話の場としても活躍しています。

人材教育については、オンボーディングやオンライン研修などの施策を講じています。オンボーディング施策によって、入社者の不安軽減と早期の定着を目指しています。また、研修をすべてオンライン実施へと変更しており、オンラインでもブレイクアウトセッションやアクティブラーニングを取り入れることで対面と変わらない研修効果を出すよう努めています。受講後アンケートにおいて、「理解度」「役立ち度」などのポジティブ回答率は9割以上で、テレワーク導入前と同等の水準を維持しています。

テレワーク環境下でも、ITツールを工夫して活用し、社員同士の信頼関係を維持し、制度が形だけで終わらない運用を実現することが重要であると考えられます。

参考:厚生労働省 令和6年度「輝くテレワーク賞」事例集

執筆者

辻 雅史

辻 雅史

インターン

北海道大学卒業、京都大学大学院在籍。教育系スタートアップにて、運営として記事制作やデータ分析、集客やマーケティングなどの業務に従事。スタートアップ従事者として、挑戦しやすい日本を実現するため株式会社BizDBにインターン参加。