
優秀人材の獲得に苦戦しているスタートアップの採用戦略とストックオプションの活用方法について説明します
スタートアップの採用戦略とストックオプション活用方法
こんにちは、株式会社BizDB代表の今井です。
多くの企業でかなり大変な思いをして採用・組織設計をしていることと思います。特にスタートアップでは、金なし・人なし・コネなしの状態から採用を始めなくてはならず、相当苦しい思いをされているのではないかと思います(弊社もその内の一つです)
ビズリーチやWantedlyなど多くの採用媒体がありますが、どれも費用が高く、大手企業が高い給料で採用をかけているので、お金のないスタートアップはそれ以外の魅力を伝えていかなくてはいけません。
企業理念や独創的なサービス、創業メンバーの人となりを丁寧に伝え、スカウトを送りまくり、ようやく面談にこぎつけられる。そんな中でせっかく採用に至ってもすぐに辞められてしまう、長続きしない。売上がなかなか上がらず従業員の給料を上げられない。 本当に大変だと思います。その気持ち、めっちゃわかります。
そんなスタートアップのための採用戦略とSOの活用方法について、私なりの考えをまとめていますのでご紹介させていただければと思います
リファラル採用には限界がある
リファラル採用はスタートアップにとって非常に有効な手段ですが、いくつか限界とデメリットがあります
創業メンバーMAX理論
特に初期のスタートアップでは、リファラル採用で創業メンバーよりも優秀な人は入って来ないというのが一般的です。 採用される側からしても、自分よりも能力の劣っている人に高いリスクをかけて人生預けようと思わないでしょうし、売上が立っていない中そんな世界に飛び込もうとは思いません。 よっぽど事業が軌道に乗っていたり売り上げが伸びている状態ではない限り、自分よりも優秀な人が入ってくることはないと思った方が良いです。
不得手な領域が生まれやすい
リファラル採用だと、どうしても経歴の類似した人が集まりやすくなります。 創業メンバーが複数いてそれぞれ経歴が全く異なる場合では問題ないでしょうが、前職のつながりや大学時代の友人などと起業する場合、職歴やバックグラウンドが類似してくるため、自ずと得意領域・不得意領域も類似してきます。 そうすると、事業をピボットした場合や新しい施策を打つときに、打ちての幅が狭まってしまうことが発生しやすいと言われています。
採用出来る人数に限りがある
これは言わずもがな、人脈にも限りがあるので採用媒体と比べると限界がありますよね。
採用媒体は金・環境・モノ全てがそろっている大企業と戦う覚悟が必要
リファラル採用が限界に来たので、じゃあ採用媒体から採用しようとなる企業も多いと思います。しかし、今は採用戦国時代、めちゃくちゃ大変です。 ダイレクトリクルーティングが流行り始めた一昔前は、ビズリーチやWantedlyなどの媒体には大企業が参入してこなかったので、スタートアップでも採用ができました。 しかし最近はこれらの媒体にも大企業や大手外資系企業が参入してきており、採用が激化している状況です。 ゆえに彼らに勝つためには、大企業には出せないスタートアップだからこそ出せる魅力を訴求するしか道が残されていません。
給料の高い大企業に勝つためにはストックオプションしかない
「優秀な人材を採用したいが、まだ売り上げが十分に立っていなくて高い給料を出せない。どうすればいいですかね」こんな相談をよく受けます。スタートアップができる事は一つ、ストックオプションを付与することです。
ストックオプションとは?
ストックオプション(SO)は、あらかじめ定めた価格(権利行使価格)で自社株を将来購入できる「権利」を従業員や取締役に付与する制度です。スタートアップが給与の代替や成功報酬として活用する場合、日本では 税制適格ストックオプション (一定要件を満たすと行使時課税を繰り延べ、売却時の譲渡所得課税だけで済む優遇制度)がよく選ばれます。 SO は 「報酬(給料)」ではなく「権利」 であるため、行使可能になるまでは実際のキャッシュアウトがなく、会社側は資金を温存できます。付与時点では株価が低いほど行使価格も低く設定でき、将来の株価上昇分が従業員の"アップサイド"になります。また、付与・行使・売却の各タイミングで税務取り扱いが異なるため、プラン設計時は専門家と相談し「付与対象・付与株数・行使価格・権利確定(ベスティング)条件」を固めるのが一般的です。
SOを発行した場合、どれくらい給料を下げられるのか
モデルケース:シード〜シリーズA期のエンジニア採用
- 大手→転職の場合:年収 1,000 万円
- スタートアップ提示:年収 700 万円(▲30%)+ SO 0.5%(総発行株式数ベース) 仮に7年後に IPO し、時価総額 100 億円・発行済株式総数 1,000 万株、行使価格 100 円、公開価格 1,000 円になった場合、0.5%=5万株のキャピタルゲインは (1,000−100)円 × 50,000 株 ≒ 4.5 億円。ディスカウントした 300 万円×7年=2,100 万円を大きく上回るため、候補者は「給与ダウンを受け入れてもリターンを狙える」と判断しやすくなります。 実務的には年収の 10〜35 %を SO 価値で補填することが多く、ポジションや調達ステージが早いほどディスカウント率が高くなります。
従業員のエンゲージメントを高めるにはストックオプションが手っ取り早い
- 経済的インセンティブ SO が「会社の価値向上=自分の利益」と直結するため、日々の業務が株価(企業価値)にどう効くかを自律的に考える習慣が生まれます。
- 心理的オーナーシップ 株主名簿に名前が載る(あるいは行使予定がある)ことで"雇われ"から"一緒につくる側"にマインドセットが変わり、組織文化へのコミットが高まります。
- 情報の透明性向上 SO 保有者には経営指標・資本政策の共有が必要になるため、経営層との対話が増え、結果的にエンゲージメントスコアが上がったという事例も少なくありません。
ストックオプションの設計によっては従業員をロックアップして離職を防止できる
スタートアップがストックオプション(SO)を導入する目的は、大きく ①優秀な人材を獲得する ②既存メンバーのエンゲージメントを高める の二つです。ところが付与したその日から全株を自由に行使・売却できてしまうと、「入社直後に株だけ確保して退職する」という"持ち逃げ"リスクが残ります。そこで欠かせないのが ベスティング(vesting/権利確定) という設計要素です。
ベスティングとは何か
ベスティングは、付与したストックオプションを「時間の経過」や「成果指標の達成」に応じて段階的に確定させる仕組みです。確定前の権利は退職・解雇などで消滅させることができるため、在籍を続けるほど権利が増え、離職すれば失う という強力なインセンティブをつくれます。
- 最も一般的なパターン:4 年間で 100%確定
- 1 年 cliff(最初の 12 か月は 0 %)
- 13 か月目以降、毎年に 25%ずつ確定
- 4 年満了で 100 %確定
ベスティングを活用した"ロックアップ"効果
未確定分を失うリスクが明確なため、退職コストが高くなる。 → 離職率が下がり、採用コストの回収がしやすくなります。
「給料で張り合えない」「採用が追いつかない」と悩むスタートアップこそ、キャッシュアウトを抑えながら優秀人材を引き留められるストックオプション設計を、早い段階で戦略の中核に据えるべきでしょう。
執筆者
今井 隆太郎
代表取締役 CEO
東京大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。その後起業し許認可手続のSaaSを展開、freee株式会社へ事業売却を経て同社へ入社、創業領域を中心としたプロダクト開発のマネージャを歴任。日本の新規事業創出の困難さと創業期における課題を目の当たりにし、挑戦する人が報われる社会でありたいという思いから株式会社BizDB共同創業