
最新の離職状況と新入社員意識調査から、Z世代が職場に求めるものと、企業が提供しているもののギャップを浮き彫りにし、定着率向上の施策を提案します。
まとめ
新入社員の3年以内離職率は、ここ10年ほぼ3割を維持している。辞めたい理由の上位は、人間関係よりも給与や仕事内容といった働き方であった。対策は、人事評価制度の改善や適材適所の実現などが軸になる。また、私生活を優先する志向やライフステージ変化を不安視する声も多く、リモートワークやフレックス制の導入などの柔軟な働き方を実運用することが新入社員の定着において重要である。
新入社員の離職状況
厚生労働省が公表した「新規学卒就職者状況(令和3年3月卒業者)の離職状況」によると、就職後3年以内の離職率は、新規大学卒就職者が 34.9%(前年度比 2.6 ポイント上昇)となった。

事業所規模別では、規模が小さいほど離職率は高くなっている。また、離職率が高い業界は宿泊業、飲食サービス業が56.6% (+5.2P)と生活関連サービス業、娯楽業が53.7% (+5.7P)であった。また、大卒3年以内離職率は、ここ10年ほぼ30〜35%で推移しており、直近の4年は上昇している。
参照:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します
労働への意識
日本生産性本部による新入社員1,792人を対象とした「平成31年度 新入社員『働くことの意識』調査結果」では、新入社員の働く目的は、「楽しい生活をしたい」(39.6%)と「経済的に豊かになる」(28.2%)がトップとなった。一方で、「自分の能力をためす」(10.5%)や「社会に役立つ」(9.3%)は減少傾向にある。働き方については「人並みで十分」が過去最高の 63.5%となり、仕事中心か(私)生活中心かという質問では、「生活中心」が17.0%で「仕事」(11.0%)との差がここ数年拡大傾向にある。

若いうちは進んで苦労すべきかという問いでは、「好んで苦労することはない」が過去最高の 37.3%となり、「進んで苦労すべきだ」は大きく減少して43.2%となった。会社の選択理由は「能力・個性を活かせる(29.6%)」「仕事が面白い(17.3%)」という回答が半数を超えた。
参照:日本生産性本部 平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査結果
新入社員の定着条件
株式会社マイナビによる、2025年に新卒入社した男女(新入社員)800名を対象に行った「新入社員の意識調査(2025)」の結果を参照する。(調査期間: 2025年6月20日〜23日)
勤続意向と満足度の現況
新入社員の勤続意向年数は、「3年以内」は全体の21.1%、「10年以上」の回答は32.0%であった。「3年以内」の回答は前年から4.8P減少し、調査開始以来最低となった。また、新入社員の34.0%が「辞めたいと思ったことがある」と回答した。現在の仕事内容への満足度は、新入社員の約8割が満足しているという結果であった。対して、勤続意向年数3年以内では不満が半数近くまでのぼる。
理想と現実のギャップ
理想の仕事内容は、「働きと報酬が見合っている」が最多の55.4%となり、「仕事内容が向いている」(46.4%)、「努力や貢献が賃金で評価される」(40.6%)「誰かの役に立っていると思える仕事である」(39.8%)と続いた。理想の仕事内容と現実の仕事内容のスコアを比較すると、勤続意向年数が短いほど、「働きと報酬が見合っている」「仕事内容が向いている」「努力や貢献が賃金で評価される」の項目で大きなギャップが生じていた。このことから、定着率を高めるには「納得いく報酬」や「適性や希望に沿った仕事内容」が重要であると言える。

人間関係の状況と退職理由
現在の上司・先輩との関係性は、「話しかけてくれる(雑談)」が67.4%でトップとなった。勤続意向年数3年以内では、他の年数と比べ「話しかけやすい(雑談)」などのスコアが低く、「業務外の付き合いはしない」のスコアが高かったため、関係性が希薄であることが窺える。新入社員が現在の会社を辞めたい理由は、「給料(昇給制度を含む)に不満があるから」「仕事内容(やりがい/向き不向きなど)に不満があるから」がともに約3割であった。次いで「上司や先輩など、職場の人と合わないと思ったから」「休日/残業時間に不満があるから」が約2割となり、給料や仕事内容は、キャリアや人間関係よりも会社を辞める理由として影響が大きかった。

定着の条件
新入社員が現在の会社でずっと働くと思わない理由は、「ライフステージに合わせて働き方を変えたいから(結婚・出産など)」「給料が低いから」「色々な会社で経験を積んでいきたいから」が約3割と上位であった。勤続意向年数3年以内では、より年数が高い層と比べ、「仕事がハード/厳しいから」など仕事内容のスコアが高い。長く勤めたい会社の条件は、「給料(昇給制度を含む)に不満がない」が57.5%と高く、次いで「休日/残業時間に不満がない」「ワーク・ライフバランスが取れる」「上司や先輩など、職場の人と合う」「福利厚生が充実している」がそれぞれ4割台となった。

参照:株式会社マイナビ マイナビ転職「新入社員の意識調査(2025)」を発表
定着率を高めるには
評価・報酬の透明化
新入社員が感じている理想とのギャップから、「納得いく報酬」や「適性や希望に沿った仕事内容」が重要であると考えられた。施策としては評価基準・昇給時期の提示による「評価・報酬の透明化」が挙げられる。適切なフィードバックの機会を設けるなどして、理想とする職場となるよう努める必要がある。
職務適合の見直し
他の施策として、スキル診断や業務ローテーションなどによる「職務適合の見直し」が考えられる。採用時点でのミスマッチ防止や、社内公募制度の設置などにより、より多くの社員が日々の業務においてモチベーションを維持できるようにすることが重要である。
ライフステージへの対応
ライフステージやワーク・ライフバランスへの不安に対処するには、リモートワークやフレックス制度の導入、副業の容認などが挙げられる。これにより、キャリア中断を防ぎやすくなり、ライフイベントにより退職せざるを得ない社員の数を減少させることができる。
新入社員の定着率を高めることは、人材コストの削減や企業イメージの向上のみならず、社員のキャリア停滞や経済的不安を防ぎ、組織と個人の双方に持続的な価値をもたらす。両者のためにも、データをもとに制度と現場運用を見直すことが重要である。
執筆者

辻 雅史
インターン
北海道大学卒業、京都大学大学院在籍。教育系スタートアップにて、運営として記事制作やデータ分析、集客やマーケティングなどの業務に従事。スタートアップ従事者として、挑戦しやすい日本を実現するため株式会社BizDBにインターン参加。